なんでも手に入る今の時代、結局なにも手に入らないんじゃないかってお話
音源や楽譜、その他あらゆる情報等が一分以内には大体手に入る時代になりました。
これにより、色々なことが便利になったのですが、大きな問題も生まれたんです。
例えばセッションで自分が覚えていない曲をやるとき、最近ではアプリのi realを見ながらする人が増えました。
これ、昔ならありえないんですよね。
といっても、僕もわりとギリギリの世代ではあるんですけど。
僕がジャズを始めたころはi realなんてものはなく、スタンダードブックしかありませんでした。
だから、セッションするにしても本を数冊持ち歩くしかないんですよね。
で、僕は手荷物が増えるのは嫌なタイプの人間なので、極力本を持ち歩かなくてもいいように、曲を覚えていました。
あと、やっぱり楽譜見ないほうがかっこいいっていうのもあったんですよね。
なので一日一曲覚えるのを毎日やったりなんかをしてました。
その時のことが糧になっていて、今でもあんまり楽譜みてインストやるってことは少ないです。
(もちろんボーカルさんが楽譜もってきたらそれは見ます。コード以外にもいろいろな仕掛けやエンディングとかも書いてあるので)
知らない曲がきたら、曲の始まる数分前に覚えたりなんかもします。
もちろんメロディーはそんなに早く覚えれないのでそこだけは見ますけど。
とにかく、コード進行ぐらいは覚えるようにしています。
この「覚える」というのがスマホの登場により、しなくていいことになってきているんですよね。
スマホの正体って、もちろん電話機なんだけども実はそれ以外に「外部記憶装置」であったり「外部頭脳」だったりするわけなんです。
youtubeという名の「記録媒体」(この言い方が正しいかどうかは別として)に寄せられたありとあらゆる世界の記録をスマホを通してみる。楽譜なんかもスマホで見れます。音楽ももちろん聞けます。
自分で頭の中で計算しなくてもスマホという「外部頭脳」があれば楽に計算できます。
例えば、セッションでキーを変えるときなんかも、i realの移調機能を使えばなんら不自由なくできます。
こうしてどんどんと頭を使わなくてもいい世の中が、ありとあらゆる分野でおきているんです。
漢字だって覚えなくてもコンピューターは勝手に変換してくれます。
しかし、ここで我々ジャズマンに問題があるのは、ジャズにとって「記憶のひきだし」というのはとても大切だということです。
例えば一つの曲のコード進行を覚えたとします。
それをすぐに12キーに移調しなさい!と言われたら、昔の人はずっと「自分の脳」ばっかりを使ってきたから、頭の中で移調した経験がほぼ必ずあるはずなんです。
なのでほとんどの人が割とスムーズに移調できると思います。
でも「自分の脳」をつかってこなかった人はそれがかなり困難でしょう。
できたとしても人前で発表できるレベルではなかったりします。
んで、そういう「自分の脳」を使ってきた人と使ってこなかった人の差が随所で現れてくる。
つまり、なんでも手に入る世の中だけど「経験」として自分に蓄積されずに、結局何も残らないんじゃないか、というのが僕の見解です。
もちろん「じゃあスマホなんて危険だから捨てなくちゃ!」って焦らずとも、なんでも手に入ることのメリットはもちろん大きいです。
ただし、それによってコンテンツ一つ一つをないがしろにしてしまうのが問題なんです。
一曲を聴き込む。という作業をすればいいんですが、youtubeとかだとすぐ次のおすすめの曲とかに移っちゃうんですよね。
これ、僕もそうなんです笑(もちろん気に入ったものがあれば何回でも同じものを見ます)
記憶に焼き付けるという作業を本来ならアーティストの人やそれを趣味とする人はしなくちゃいけないんですけども、この麻薬にも似たスマホによる「スマホ依存症」のせいでなんにも記憶に残らない、残す必要のない世の中になっていくと僕は思っています。
自分で考え自分で記憶し、それを演奏に出せる。それがジャズにおいては大事なんじゃないでしょうか。